テンヨーのマジック開発メンバーにきまって聞かれる質問があります。
「マジックはいつもどうやって考えているんですか? 」
「アイデアを出し続ける秘訣があるんでしょう?」
テンヨーは毎年秋頃に、新規性の高いアイデアにもとづく3~4点のマジック製品(マジックテイメント)を発売します。
例年、ラインアップの大半は社内開発メンバーによるクリエイションです。マジックグッズを製造販売するおもちゃメーカーは世界にいくつもありますが、「毎年」かつ「内製で」新しいマジックを何十年と考案し続けている会社はテンヨーだけだと言い切れます。
ならば、アイデアを生み出し続けるための秘密のメソッドを企業として確立しているに違いない、などと想像されるのも無理からぬことでしょう。
ところがその質問を受けた開発メンバーは答えに窮するか、適当なことを言ってお茶を濁すでしょう。マジックを生み出す方法があるのならばこちらが聞きたいというのが本音だからです。「マジックテイメント」を世に出すための魔法のタネ。そんなものがあるのでしょうか。
アイデアの創出はいかなる分野においても難しいことであり、マジックの考案を特別視しようとは思いません。しかし「不思議」の新規考案のためには、マジックならではの条件を乗り越える必要があります。
それは、①一般的に不可解に見える現象が起こり、②それを達成するアイデアが、見る者の推理を突破する強度と巧妙さをそなえていること。
さらにテンヨーの商品として乗り越えるべき条件がいくつもあるのですが、上に書いたことをクリアするだけでも途方に暮れるほど難しい。
それはエンタメとして「人の裏をかく」ということの根本的な困難さだといえます。
開発メンバーは毎年どうやってこの考案業務をこなしているのか。答えは「七転八倒する」です。まるで答えになっていないかもしれません。
もちろん開発メンバーはマジックに長年携わってきた人間ばかりであり、その世界の知見をそなえています。過去にいくつもの商品を考案開発した実績もあります。しかしそれは決して、次の新作を生み出すことを保証してくれるわけではありません。
実際、アイデアが出ず数ヶ月間も進展なしというのはざらです。「今年も出ないねえ」と声をかけあいながら、暗中模索で考え続けます。
ところがスケジュール的に発案の期限がギリギリ、今年はいよいよもう無理か…というタイミングで、すべり込みでアイデアが出そろいます。
創造の領域での「火事場の馬鹿力」ということなのでしょう。
よく言われがちな「散歩をしていたらふと思いついた」「ふわっと頭に浮かんできた」などという表現に我々は違和感を覚えます。アイデアは、対象物をいじり倒し、脳みそを万力で締め付けたあげく一瞬現れるおぼろげなひらめきの影をキャッチできるかどうかにかかっています。考案にいたるストーリーは製品ごとに千差万別ですが、間違いなくいえるのは、そのどれもが、もがき苦しんだ末に生まれた一滴のアイデアにより成り立っているということです。
テンヨーが企業としてなにかを行っているとすると、その一滴を絞り出させるための環境づくりだといえます。すなわち事業として絶対にリリースするという目標をたて、締め切りを設定する。クリエイションにおける火事場の馬鹿力を発動させる、背水の陣をしくこと。
それこそが、無からマジックテイメントを生み出す「魔法のタネ」なのかもしれません。